2008年4月2日

中森明菜/難破船(1987)

作詞:加藤登紀子
作曲:加藤登紀子
編曲:若草恵

明菜ちゃんの文句なしの代表曲の一つです。

この頃の明菜ちゃんはもうアイドルではない立派なシンガーとしての地位を確立していく一方、当時交際していたマッチこと近藤真彦との破局が囁かれていた、といった時期でした。
その時期に、まさに何というタイミング、この運命的な曲との出合いを果たすことになるわけです。

静かに始まるイントロからぐっと曲の雰囲気に引きずり込まれます。

歌詞中に何度か出て来る「海の底」「沈む」という言葉、この曲の作者である加藤登紀子さんはおそらく、「川沿いの岩の上に立つ美しい少女に魅入られた船乗り達は次々と川の渦に巻き込まれて沈んで行く」という「ローレライの伝説」をイメージに取り込んで詞を書いたのだろうと思います。

 おろかだよと 笑われても
 あなたを追いかけ 抱きしめたい
 つむじ風に身をまかせて あなたを海に沈めたい

主人公の女性は目標も帰る場所も失った、という点で「難破船」です。
男性を「船」に、女性を「港」に例える日本演歌的なステレオタイプを転倒させているところが新鮮です。

また一方で、愛する人を失うくらいならいっその事その人を海の底に沈めてしまいたいと考える点で「ローレライの少女」でもあります。何故かヨーロッパというよりも日本の怪談噺的なウェットな情念が伝わって来るあたりが、人によっては「怖い歌」という風に受け取られる所以かも知れません。

「船」と「少女」という構図的に対立している対象の両方を主人公の女性に重ね合わせて悲劇的なイメージを構築するなんて、加藤登紀子さん、さすが、といった感じです。

歌のラストはこんな歌詞で締めくくられます。

 たかが恋人を なくしただけで
 何もかもが消えたわ
 ひとりぼっち 誰もいない
 私は愛の難波船

当時の明菜ちゃんの心情を考えて改めてこの曲を聴くと、なんとも痛ましい気分になってしまいます。
それと同時に「人馬一体」ならぬ「人歌一体」の凄みに引きずり込まれずにはいられません。

そう、この曲のキーワードは「引きずり込まれる」です。

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